2012年5月17日木曜日

「ND」「不検出」「検出されず」「検出限界未満」の意味

「ND」「不検出」「検出されず」「検出限界未満」の意味


現在、国・自治体・民間機関・市民測定所等で食品中の放射能検査が頻繁に実施されています。 公表された検査結果に書かれている、「ND」「不検出」「検出されず」「検出限界未満」などの表記をご覧になったことがあると思いますが、検査機関によって表記が異なるので多くの一般市民は混乱してしまうという実態があります。

今回は、「ND」「不検出」「検出されず」「検出限界未満」の意味を解説してみましょう!

それぞれの表面的意味としては
① 「ND」:Not Detected(検出されなかった)  疑問:ほんとに無かったの?
② 「不検出」:検出されなかった   疑問:ほんとに無かったの?
③  「検出されず」:検出されなかった  疑問:ほんとに無かったの?
④ 「検出限界未満」:検出できる最小値に満たなかった  疑問:実際はどのくらいだったの?
….となるのですが、いずれも適切な表現ではなく、①〜③は「ゼロ」と思ってしまう方もいらっしゃるだろう! 実は意味するところは全て同じなのです。表現が好ましくないのです。出来れば使用しないでいただきたい。

壊変は確率現象


セシウム137やヨウ素-131等の放射性核種が壊変するのは、いつも一定ではなくてバラツキを持った確率的な現象なのです。(10枚に1枚は当たるはずの宝くじの末尾賞300円ですが、バラで100枚買っても必ずしも10枚当たるとは限らず11枚の時もあるし8枚の時もある…..)

バラツキをもった放射性核種の壊変に伴って放出される放射線を、測定器で観察するわけですから測定値も当然バラツキをもってしまうわけです。 長時間観察したら(大量の宝くじを買ったら)、一定の放射能に収束する(10枚に1枚当たる状況に近づく)わけですがバラツキが全く無くなるわけではありません。

自然計数もバラついている


測定器に検体をセットしていない状態でも周囲にある自然界の放射線によりカウントされてしまう現象があります。 これが自然計数(バックグラウンド)と呼ばれるもので、同様に一定ではなくバラツキを持っています。 測定器に検体をセットした状態では、バラツキを持った自然計数に加えてバラツキを持った検体中の放射性核種からの放射線を同時にカウントするわけですから、測定値は大いにバラついて益々信頼性がない状態が生まれています。

信頼性を高めて数値を得るには


純粋に「検体からの放射線」のみを区別するためには「自然計数」を差し引く必要がありますが、「自然計数」も「検体をセットした時の計数」もバラついていますので、差し引いた後のバラツキは更に拡大することになります。(不確かなものから不確かなものを引いたら、結果はさらに不確かになる!)

([検体+自然計数] ± バラツキ1)−([自然計数] ± バラツキ2)=([検体] ± バラツキ3)

このような計算で得られた([検体] ± バラツキ3)を、正味の計数(N) ± 標準偏差(σ)と表します。

標準偏差(σ)を正味の計数(N)と比較して相対的に小さくするには、近似的にσ=√Nの関係にあるので「長時間測定による計数増加を促すこと」が重要となります。

ここからは統計学になるのですが
N ±σ とは、100回測定した場合にNが68.3%の確率でバラツキ範囲(σ)に収まるという意味になり、以下同様に
N ± 2σ では、95.4%の確率でバラツキ範囲(2σ)に収まることになり、
N ± 3σ では、99.7%の確率でバラツキ範囲(3σ)に収まることになります。

放射能決定する場合には、その数値に確かさを持たせるため、厳しい条件 N ± 3σで判定するのが一般的となっています。 即ち、N>3σが成立していることが判定条件で、99.7%以上の信頼性でNが意味のある数字(有意な数字)だと言える必要がある。 計数値よりバラツキのほうが大きい条件 N<3σ では、Nが意味を持たないと判定され(「統計的に信頼性がない数値」と判断されます)

「ND」「不検出」「検出されず」は判断できないという意味


まとめると、「ND」「不検出」「検出されず」「検出限界未満」の意味することは同じで、この測定条件では自信を持って「放射能があると言えなかった」という意味になります。

① 「ND」:「統計的に信頼性がない数値」だから「放射能がある」と言えなかった
② 「不検出」:「統計的に信頼性がない数値」だから「放射能がある」と言えなかった
③  「検出されず」:「統計的に信頼性がない数値」だから「放射能がある」と言えなかった
④ 「検出限界未満」:<3σ(検出限界値)未満だから「統計的に信頼性がない数値」であり「放射能がある」と言えなかった



あがの市民放射線測定室(あがのラボ)では「ND」、「不検出」、「検出されず」は誤解が生じやすいので使用せず、「検出限界未満」<3σ(検出限界値) 表記を用います。

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