2012年7月24日火曜日

湖沼の放射能調査(その1)

湖沼の放射能調査(その1)

 

新潟県は福島原発事故による直接的な放射性セシウム汚染は低かったものの、阿賀野川の上流部に位置する福島県の只見川・阿賀川水系の放射性セシウム汚染の影響を受け続けている。 放射性セシウムは泥成分に吸着し、阿賀野川河川水と阿賀野川から取水したかんがい用水と共に下流域に移動し、水田・畑・湖沼などに及んでいると考えられるが、その実態は充分に調査されていないのが現実です。

あがのラボでは、今後も長期間継続すると思われるセシウム汚染の影響を予測するために、現時点での汚染の実態を把握する必要があると考えて、これまでに「阿賀野川河川敷堆積物」「用水路堆積泥」などを調査してきました。 今回は、泥成分が沈降しやすい湖沼を対象に放射能調査を実施しました。   調査した地点は、かんがい用水と一般河川水が混合流入している内沼(新潟市北区)十二潟(新潟市北区)、かんがい用水の直接流入が認められない瓢湖・さくら池(阿賀野市)及びじゅんさい池(阿賀野市)


採取地点



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測定結果

 

直接にかんがい用水の流入が認められない①瓢湖②瓢湖・さくら池(人工池)③じゅんさい池(ため池)では、堆積物中の放射性セシウム濃度は「検出限界未満」〜31 Bq/Kg(乾燥泥)と予想されたように低い値でした。 ただし、NaIシンチレーション測定器を用いたγ線スペクトル上にCs-137と共にCs-134のピークが明確に確認できないので、放射性セシウム汚染の原因が福島原発事故に起因するかは判断できませんでした
汚染度が低く「検出限界未満」となった②瓢湖・さくら池に関しては完全閉鎖系でその水源は天水(降雨)のみですが、①瓢湖と③じゅんさい池には河川水や沢水の流入が認められますので、今後も放射能濃度の継続測定が必要と考えています。

   かんがい用水と一般河川水の流入が認められる④内沼⑤十二潟では、閉鎖系と比べて汚染度が高くなっていると予想していましたが、実際には77 Bq/Kg(乾燥)と「検出限界未満」という低い値に留まっています。 ④内沼と⑤十二潟の底質泥を採取できる場所が流出口付近に限定されたため、沼や潟の上流部や中央部の底質泥汚染の程度は未調査なので断定できませんが、面積の狭い④内沼では水域の広い⑤十二潟よりセシウム汚染が進行しているものと考えられます。   

測定結果


さくら池周回水路の汚染状況

 

瓢湖さくら池周回水路のセシウム汚染が明らかとなりました

図に示したように瓢湖の4つの池(瓢湖本池、東新池、さくら池、あやめ池)を縦貫してかんがい用水路が流れていますが、直接に用水路水は瓢湖には流入していません。 しかし、用水路からの取水栓が中央部に存在し、さくら池周回水路にかんがい用水の一部が流れていることが分かりました。

  周回水路の上流部から下流に向かってA、B、C地点から堆積泥を採取し測定したところ、いずれの地点からも放射性セシウムが検出され、しかも下流部の方が高濃度に汚染されていることが判明しました。

この周回水路ではかんがい用水路と比べて極端に流れが悪くなるため、放射性セシウム吸着泥が堆積しやすい環境にあるものと考えられます。
上流部より下流部の方が放射能濃度が高くなっているのは、去年の福島原発事故直後に堆積した高濃度に汚染された泥が徐々に下流に移動したためと推測しています。

さくら池周回水路の下流部は住宅に隣接していますので、住民への注意喚起が必要と考えます。


      (A地点):さくら池周回水路堆積泥  138 Bq/kg 
    (B地点):さくら池周回水路堆積泥  307 Bq/kg 
    (C地点):さくら池周回水路堆積泥  484 Bq/kg



瓢湖採取地点

 ★連絡先
   あがのラボ (あがの市民放射線測定室) 担当:村上
           0250-62-3102  /  080-3208-6563

   Twitter  : @purplewatch
   Facebook : http://www.facebook.com/nao.purpleswan


あがのラボ放射能無料検査申込書pdf

2012年7月3日火曜日

かんがい用水路の堆積泥調査

かんがい用水路の堆積泥調査



  あがのラボでは、農業用水路を経由した「放射性セシウム汚染泥」の移動実態を調査するために、阿賀野川や小阿賀野川の水を灌漑用水として配水している阿賀野川土地改良区、新津郷土地改良区、亀田郷土地改良区が管理する地域を調査対象に選び、流れの緩やかな終末部の農業用水路に堆積している「用水路泥」を採取して放射能測定を実施しました。

  その結果、採取した全ての「用水路堆積泥」から放射性セシウムが検出され、阿賀野川から用水路を経由した放射性セシウムの移動拡散が確認された。

 

 

サンプリング地点と測定法

 

地図に示したサンプリング地点(①〜⑥)から採取した用水路堆積泥を天日乾燥後にふるいにかけて小石等の異物を取り除き、1リットルのマリネリ容器に充填してNaIシンチレーションカウンター(AT1320A)で5,000秒測定し放射能を決定した。 セシウム放射能濃度はCs-137とCs-134の合算で表記。 検出限界値は、それぞれ Cs-137:5 Bq/kg、Cs-134:3 Bq/kg。

 
◎阿賀野川土地改良区
    ①阿賀野市沖通    :阿賀野川頭首工→右岸幹線用水路(大荒川用水路)
    ②阿賀野市熊堂村新田 :阿賀野川頭首工→右岸幹線用水路(高関用水路)
    ③阿賀野市法柳新田  :阿賀野川頭首工→新江幹線用水路
    ④新潟市北区上大月  :阿賀野川頭首工→西部幹線用水路(長浦1号用水路)
◎新津郷土地改良区
    ⑤新潟市秋葉区東金沢 :阿賀野川頭首工→左岸低位幹線水路
◎亀田郷土地改良区
      ⑥新潟市江南区大渕  :沢海揚水機場→阿賀1号用水路









より大きな地図で 用水路堆積泥採取地点 を表示



測定結果

 

   用水路堆積泥(①〜⑥)から検出された放射性セシウム濃度(Cs-137+Cs134合算)は、161〜371 Bq/kgとなった。
   この値は、阿賀野川の河川水を利用している新潟市満願寺上水場で採取された脱水汚泥中の放射性セシウム濃度や阿賀野川河川敷堆積泥中の放射性セシウム濃度と同レベルであり、際立った濃縮などは観察されていない。 今回採取した用水路堆積泥の堆積時期等の履歴が不明なので、今後の変化を予測することはできないが、阿賀野川底質泥と用水路堆積泥を継続的に測定することで、相関関係を把握できると考えている。

   用水路の多くは一般住民が暮らす住宅地から離れた場所にあり、通常は水で満たされているので用水路内の堆積汚泥からの放射線による一般住民への外部被曝は殆ど問題にならないと考えれる。 しかし、流速が相対的に小さくなり泥の堆積が生じやすい用水路終末部や支線水路において、渇水期の乾燥や人為的な用水路泥の泥上げ作業により放射性セシウム泥の移動・拡散が発生すると予想されるので農作業中の内部被曝防止の観点から注意を払う必要がある。







かんがい用水路堆積泥の放射性セシウム


他県の状況

 

河川水のかんがい用水への利用は他県でも一般的に実施されているが、直接に用水路の堆積泥を測定したデーターはほとんど公表されていない。 環境省は、汚染状況重点調査地域に指定された福島県、岩手県、宮城県、茨城県、栃木県、群馬県、埼玉県、千葉県を対象に、河川・湖沼・ダム湖・溜池・海水浴場等の公共用水域の汚染状況を詳細に環境モニタリングしているので、そこから河川底質泥河川敷土壌の数値を抜粋して表にまとめてみました。 一方、汚染度が低く、汚染状況重点調査地域から除外されている新潟県では河川等の公共用水域の詳細な調査は実施されておらず、唯一福島県を源流とする阿賀野川の河川水・底質泥の調査結果のみ公表されているので比較として表に加えてある。







他県との比較(河川泥)


    汚染状況重点調査地域に指定された地域の河川の汚染状況は予想以上で、福島県、茨城県、宮城県に加えて千葉県・埼玉県・東京都を流れる河川の汚染が顕著となっている。 比較的汚染が低いと考えられていた岩手県や山形県でも河川の汚染が進行していることが示されており、多くの地域で河川を介して放射性セシウムの移動が進行していることが伺われる。


   ◎用水路では放射性セシウムが泥に吸着して移動するので、取水はできる限り濁りの少ない時期を選択することが必要特に、雪溶け〜梅雨の季節に用水路水の濁りが顕著

   ◎住宅地や集落に隣接して用水路が配置されている場合に、用水路水が家庭菜園に利用されているケースがある。(家庭菜園の作物は食品中の放射能スクリーニンクの盲点となっている

   ◎用水路の水を部分的に引き込んだ湖沼や一般排水路の側溝では滞留が生じやすく放射性セシウム汚染泥が堆積しやすいので、思わぬ場所に高濃度の放射性セシウムが局在している可能性がある



東日本大震災の被災地における放射性物質関連の環境モニタリング調査:公共用水域(環境省)
阿賀野川の河川水、底質及び沖合海底土等の放射能測定結果について(新潟県)
汚泥に含まれる放射性物質の調査結果について(新潟市水道局)
福島第一原発事故による新潟県への放射能の影響をとりまとめた報告書(Ver.2)(新潟県)
用水路堆積土砂の放射性物質測定結果について(神奈川県山北町)

河川汚泥中の放射性セシウム濃度の経時変化

河川汚泥中の放射性セシウム濃度の経時変化


   福島第一原発事故により放出された放射性物質の中で放射性セシウム(Cs-137, Cs-134)は阿賀野川河川水中の粘土成分(バーミキュライトやモンモリロナイト)に吸着され福島県会津地方から新潟県へと移動していることが明らかとなっています。 阿賀野川の河川水は、流域の市町村の上水道原水として利用されているだけでなく、農業用かんがい用水としても広く利用されていますので、長期にわたる水田への汚染泥の沈着が懸念されています

     新潟市が公表しているデーターを使って、満願寺浄水場(阿賀野川下流域)で採取された汚泥中の放射性セシウム濃度の経時変化をグラフにしてみました。 福島第一原発事故直後の昨年5月末〜6月初頭にセシウム濃度が大きく増加し(ピーク①)、その後急激に減少しますが梅雨の時期にやや増加しています(ピーク②)。 昨年7月に発生した新潟・福島豪雨による阿賀野川水系(阿賀川・只見川)の氾濫による放射性セシウム濃度の増加は観察されず、むしろ減少する結果となっています。 これは、おそらく大量の雨による希釈効果によるものと思われます。 渇水期の夏場には緩やかに減少し、台風が来襲する秋口になると再度上昇しています(ピーク③)。 河川泥に含まれる放射性セシウム濃度の増減は上流域(会津地方)での降雨等による川底の撹拌や、ダムからの調節放流などが影響すると思われますが、詳しいことは全く分かっていません。 現在は、満願寺浄水場付近では河川泥に含まれる放射性セシウム濃度が安定して150〜300 Bq/kg(湿土)のレベルで推移しています。
 
    一方、信濃川水系の戸頭浄水場で採取された河川泥の放射性セシウム濃度変動は満願寺浄水場での変動と異なっています。 福島第一原発事故直後の昨年5月末〜6月初頭に約1,300 Bq/kg(満願寺の1/10程度)を記録したがその後急激に低下し、際立った季節変動も観察されていません。 現在は約50 Bq/kg程度のレベルで推移しています。 阿賀野川水系(満願寺)の放射性セシウム濃度が信濃川水系より高いこと、季節変動を伴うことなどから、上流の高汚染地帯(会津地方)の影響を受けていると考えられ継続的な監視が必要と思われます。


汚泥に含まれる放射性物質の調査結果について(新潟市水道局)



満願寺汚泥放射能レベル(jpeg)